よるみる

星新一『声の網』は2019年の衝撃

ショートショートの神さまとも呼ばれる星新一さんが1970年に発表した『声の網』。現代の情報流通について考えている身としてはかなり衝撃的な内容でしたので感じたことをここに書評として記します。

もし、あなたが人工知能やデータ流通に関する仕事をしている、したいのであれば一読の価値があると思います。

ネタバレが含まれる可能性がありますので、あらかじめご了承ください

星新一著『声の網』

装丁

星新一さんといえばショートショートの神さまとも呼ばれていますが、小学生の頃に読んだ人も多いのではないでしょうか?

私は、小学生の頃、初めて星新一さんの『きまぐれロボット』を読んだのを覚えています。『ブランコのむこうで』や『ボッコちゃん』も今でも実家の本棚にあると思います。

星新一さんの作品はどれも星新一ワールドで、どの作品を読んでも「星新一だな〜」と感じさせてくれます。遠く懐かしいいわゆるノスタルジックと表現されるような世界観に、近未来を感じさせるような想像力が混じっており、その中で繰り広げられる人間の行動もまた読み手を楽しませてくれます。

さて、『声の網』は1970年に発表された作品です。やはり冒頭から星新一ワールドを感じずにはいられません。この作品は、「電話で様々なことができる。」そんな、今の情報化社会におけるiPhoneのSiriやAmazonのAlexaが身近に溶け込んで誰もが当たり前のように使っている世界が舞台の作品です。

『声の網』、2019年の衝撃

2019年の衝撃とタイトルにつけていますが、恩田陸さん(『蜜蜂と遠雷』で直木賞を受賞した作家)による解説のタイトルが『一九七〇年の衝撃』でした。私がこの本を読んだのが2019年でしたので、2019年に読んでも相当な衝撃を受けたのでこのタイトルにしました。

1970年はまだ、インターネットと呼ばれるものを一般の人が認識していなかったような時代だと思います。今のインターネットの通信方式のTCP/IPと呼ばれる技術が標準化されたのは1982年のことです。おそらく一般的にインターネットが普及し始めたのは1990年代の半ばごろかと思います。そんな時代に発表されたのが『声の網』という作品です。

作品の中では、お金の出し入れや振込、送金が電話で行え、電話を通じて、診察ができたりします。

この作品で最も衝撃的なのが、電話で自分の記憶や情報を記録するという描写があることです。

今月(本記事執筆時は2019年3月)から政府が情報銀行の事業者認定が始まります。情報銀行とは、個人情報を収集、管理するためのサービスで、個人データを収集、解析、安全に保管をすることで、それぞれの個人がより良いサービスを受けられるようになるとされています。

作品の中では様々な人々が自分の記憶や体験を電話に記録していきます。電話により集められたデータは電話(コンピュータ)により解析され利用時に最適化されて扱うことができます。これはまさに、情報銀行が提供しなければいけないサービスです。

情報銀行ではもちろん、人工知能(AI)と呼ばれるような技術が使われ、各人にとって最適な答えを返す必要があるわけですが、もちろん『声の網』ではこれも描画されており、ここが物語のキーにもなってきます。

また、コンピュータが自らデータを収集し始めるというような現象にも触れられており、現代のデータ流通に関する技術やサービスに対しても考えさせられます。

本の中で「情報はエネルギーなり」という表現もかなり刺激的でした。情報(知識)がなければ人は何をすることもできないということを思い知らされました。例えば、木は火がつき燃えるというような情報がなければ、火と木材いうエネルギーを扱うことすらできないわけです。このフレーズから情報というものの価値にハッと気付かされます。

情報リテラシーに関する議論が様々なところでされる今、ここまでにも、情報の大切さを感じさせてくれるものはなかったかもしれません。

さいごに

1970年に発表した作品には思えないほどの新鮮さを感じられる作品です。
ネタバレを含んで良いのであればもっともっと書きたいことがあります。是非とも、この本を読んだ方々とこの作品について議論したい!議論しなければと思っています。

近い将来、マイナンバーも充実し、情報銀行による恩恵を我々は受けられるようになるでしょう。また、データ流通に関するサービスも生まれ、私たちのデータは私たちのために世界中を行き来することになるでしょう。

そのような将来、私たちの生活はどうなるのでしょうか?果たして豊かになるのでしょうか?それとも作品で描かれているような結末になるのでしょうか?

私たちは、そろそろ、真剣に自分のデータについて考えなければいけないのかもしれません。

『声の網』を読んで、星新一ワールドに完全に引き込まれてしまいました。もっとこの人の作品は読まなければいけないなと感じさせらています。